朝日世界会議を聴講して
10月3日、Asahi World Forumでマイケル・トッド氏の講演「グローバリズムの危機」を聞いた。世界の動向の預言者とも言われるフランス人類学、歴史学者。欧州の混沌ぶり、米国の大統領選と背景、中国の実態と動向、日本の課題など崩れつつあるグローバリズムを軸に世界はどこへ向かうかについての話に続き、パネル・ディスカッションではまさに、Nationに戻っていくそのベースをそれぞれの国はどう固めるか、何をなすべきかという重大かつ深刻なテーマについて討議された(彼の新刊書「グローバリズム以後―アメリカ帝国の失墜と日本の運命」が同日に朝日新書から発刊された¥720。)
もはや経済中心を軸に世界がコマのように振り回されるフェーズから、国々(国民)が足を地につけて国としてのアイデンティティを大切にしていく方向へのトランジションが起こっていることを予見している。Brixitはその象徴のようである。日本はどうか。日本が正面切って取り組むべき課題は人口問題だとスピーカーは言い切る。経済や憲法問題よりも根源的なのは確かだろう。人口が減り続けて、社会保障はどうなるのか深刻な問題である。経済発展の政策もきしみだしている。原発稼働も経済と深く関わって進められていくが、本当に他の選択肢はないのか。徹底して突き詰めていいはずの問題でないだろうか。決めるのは国民、市民の我々のはずだが、日本が原発廃止へとギアを切れないでいるのは、市民の意識、先見性がそこまでなのだと認めない限り、政府は一方的に政策を通すだけだ。通したくなければ立ち上がるしかない。
権力への抵抗が薄い国だが、非民主的かというとそうでもない。何か、全般にファジーな中で、大して幸福でもなく、不幸でもない国、それが日本だ。霧のなかにいて、先を、全体を見通せない。だから立ち上がらない。革命とはいわずとも、変革さえ起きにくい。静かに下り坂をたどっているとは、フォーラムでの日本の社会学者パネリストの弁である。下っているのを知るのも賢さ、相応の生きる知恵を紡ぐにも賢さが要る。とても神妙な話である。10・05・‘16